「生涯投資家」村上世彰

以下、気になった部分を抜粋

私は上場企業の経営者に、常々「自分の会社の株式を一定程度持つべきだ」と提案してきた。

それは、経営者に株主と同じ目線を持ってもらうためであり、株主と同じリスクとリターンを背負う気持ちで事業を運営してもらいたいからだ。

日本の上場企業には、自社株も持たずに経営をしている取締役が多すぎる。

そうした経営者にあるのは給与や賞与という安定的な収入のみで、株価に連動するリスクとリターンがない。

 

日本の投資家は私の理念に賛同してくれたが、アメリカの投資家は違う。

まず理念を説明すれば、「日本の資本市場を変えたいという君の理念はわかったが、実際にはどうやっていくら儲けるんだ?どうやってエグジットするんだ?」と必ず聞かれ、「日本の資本市場をどう変革するかなんて、私には興味がない。とにかく儲けてこい」とだけ言われた。

彼らは極めてシビアかつビジネスライクで、いくら儲けたかの数字のみですべてを評価する。

 

現在私が人からの資産を預かって運用するという形式ではなく、自らの資産だけで投資を行っているのは、とことんまで自分の信念を貫くことができるようにするためである。

 

株式発行による直接金融で資金を調達する必要のない企業は、上場を廃止して非上場になることを検討すべきだと思う。

特に近年流行った「買収防衛策」を導入するような企業は、本当に買収されることを回避したいのであれば、非上場化すべきだ。

 

アメリカの企業では、手元に積みあがってきた資産や投資された資金は、M&Aを含めた事業投資を行うなど、企業価値を向上させるために積極的に使われる。

使い道がなければ株主に還元し、また必要になったら市場から調達する、という流れが当たり前にできている。「手元に残さない」経営だ。

そうやって資金を循環させることで、上場企業はさらに多くの投資を呼び込み、業績が拡大する。

 

日本の株式市場の規模は、およそ500~600兆円。

アメリカの株式市場の規模はおよそ2000兆円だから、日本の3~4倍の規模となっている。

しかし上場している企業数は、いずれも二千数百社と大して変わらない。

日本の上場企業の純資産と米国の上場企業の純資産も、ほぼ変わらない。

これは純粋に、同じ規模の純資産を保有する企業であるにもかかわらず、日本企業の価値は株価に反映されていないということを意味している。

日本の企業が将来的に、現在の資産以上の価値を生み出すと期待されていない、と言い換えることもできる。

 

2016年3月末時点の日銀および年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を合わせた公的マネーは約40兆円。

東証一部上場企業の約半数で5%超の大株主となっており、上場企業全体の4社に1社では事実上の筆頭株主となっている。

日本全体に占める比率は、8%ほどに達している。

いまや、株式会社日本の筆頭株主は実質、日本国なのだ。

 

私は、これからの日本にとって何よりも大切なことは、資金の循環だと信じている。

資金の循環は、投資を中心として起こる。

投資をし、リターンを得てその投資を回収し次の投資を行う、という流れは決して悪いことではない。

もちろんリターンを得られることも得られないこともあるが、そうやって日本のあちこちで塩漬けになっている資金を回していくことの重要性を、これから日本を支えていく若者を中心に、伝えていきたい。