「ユダヤから学んだモノの売り方」立川光昭

ユダヤ人が商売で一番大切にしていること、それは「買う人、つまり、お客さんがいるかどうか」ただそれだけです。

商品や宣伝がとんでもなく素晴らしいものでなくても、それを買ってくれるお客さんが存在すれば、マーケティングは成功といえます。

 

ユダヤ系企業のすごいところは、「結果を出した者がとにかく偉い。結果を出した者は、人と違った何かを持っているのだから、その人の言うことを、みんなで聞くようにしろ」という考え方です。

 

彼らはテストなどでも、平均的にいい点を取ろうなどと考えません。たった一教科でも抜きんでたものがあれば、それを伸ばして圧倒的な有利に立とうと考えます。

優秀な大学を出ようが、強要にあふれていようが、重んじられるのは「一つの能力に優れていること」なのです。

 

何かをゼロから始めるのではなく、いま持っている資源や仕組みを使って、そこから新しいビジネスを立ち上げる。

そうしてビジネスを掛け算で考えていくのがユダヤ流のやり方です。

 

ユダヤ系商社では、やたらとミーティングが多く、しかも問題が起こるたびに「誰が悪いんだ?」「何が原因なんだ?」と、犯人探しを執拗なまでに繰り返します。彼らの場合は、どんな小さなことであっても、責任追及しないことには、先に進まないのです。

しかしながら、「誰が悪いか?」という議論に終始していても、責められる人間が辛いだけで、仕事にプラスにならないことは往々にしてあると私は思います。

 

世界経済を牛耳っているユダヤ人たちは、「とことん考えろ」を信条としています。

仕事の計画を練るなら、まずすべての可能性を分析して、最も効率的なやり方を完璧なまでに作り上げる。あらゆる状況を想定し、考え得る問題への対応をシミュレーションし、その通りにやれば誰でも計画が遂行できる計画書やマニュアルをつくってしまいます。

その時点で、「一切ムダがない」「これなら失敗しない」となったら、仕事に取り掛かるわけです。

 

じつは、あらゆる分野で成功者を輩出しているユダヤ人ですが、医療やシステム関連を別にすれば、技術面で世界特許というのは、あまり持っていません。

要するに、「これならうまくいくかも!」というイメージで開発を進め、先に特許を出願する、といった考え方が彼らは苦手なのです。

 

「君、ホテルに行って、ゆっくりしてきなさい」

指定されたのは、それこそ自分では絶対に宿泊しようなんて思わない、誰もが知るような高級ホテルです。

「外部との通信を遮断し、そのホテルに数日こもって、アイデアを考えてくるんだ。君ならできるだろう?」

つまり、「アイデアを出す」という、ただそれだけのために、社員に休暇を与え、高級ホテルの宿泊費まで彼らは出すのです。それだけ「アイデア」というものに対して重きを置くというわけです。

 

飲食店相手の顧客データベースをつくるシステムを、海外から輸入したことがあったのですが、そのデータベースは、顧客の誕生日も登録できるというシステムでした。私はこのデータベースに「お祝いメール」を送る機能をつけることを上司に提案しました。

ところが、ユダヤ人の上司からは、ボロクソに言われる始末でした。

「そんなことに何の意味があるんだ?顧客の顧客を喜ばせ、リピート率を高くしたところで、うちには何のメリットもない。それより、このシステムをどれだけ飲食店に導入できるかを考えろ」ということだったのです。

 

彼らは世界的にもPRの天才として認知されていますが、私が衝撃を受けたのは彼らが「ハッタリ」、いわゆる誇大広告を使う点です。

「なぜ、君はパッケージを大きく見せないのだ?」と、いつも私は彼らから言われていました。ウソはダメだけど、オーバーに見せるのならいい。なぜなら、言ったことは近いうちに必ず実現できるから、というのがその理屈でした。それゆえ、彼らは広告で『2割増し』くらいのことを平気で言います。

 

「お客さんがいない、集まらない」引いては「モノが売れない」と嘆いている会社は、得てして競合他社と同じようなことをやって負けているケースが多いものです。

まずお客さんをきちんと想定、分析し、その上でピンポイントのマーケティングを行っていくのであれば、集まらなくなっているお客さんでも、再び集客できると私は思っています。

 

ユダヤ流のマーケティングでの考え方は、「先にお客さんありき」でした。

つまり、「その場所には、どんなお客さんがいるのか?」を見抜くことが、とくにラーメン店のように競合がひしめいている業界においては、重要課題になるのです。

自分のつくりたい味を極めるより、その場所で、食べに来たお客さんにウケる味を徹底的に研究するべきです。

簡単なやり方としては、その地域でどんなお店が長く続き、繁盛しているかを研究する、ただそれだけです。

 

社長の松村厚久氏が言うことには、店を出そうと決めたら、その地域にある100店舗ものお店のすべてを見て、いいところと悪いところを探すのだそうです。

モノが売れない、仕事の業績が上がらないという人に限って、お客さんがどんな人で、どんなところに行き、どんなものを買っているかを見ていません。

モノを売るためのマーケティングは、シンプルに考えるべきです。

そこにいるお客さんが「欲しい」と感じるものを提供すれば、必然的に売れます。

 

現在、私が電力会社で成功できたのも、電力そのものを売ったからではなく、「スポーツチームへの貢献」という別のものを売るようにしたからです。

これは、AKBなどのアイドルのCDが、握手券や人気総選挙の投票券を目玉として売られていることと同じです。

 

もしみなさんが「お金がない」という状況に陥ったとき、使えるものは次の三つしかありません。体か、頭、あるいはいままで培ってきた人間関係のどれかです。

その中で、どれが一番大事か?と聞かれたら、私は「とにかく知恵を絞るために頭を使いましょう」と答えます。頭を使って知恵が出たら、次に体を使って動き、最後に知り合いに頼むことをすべきです。

 

ユダヤ流マーケティングの説明でも何度かお話ししたことでもありますが、まず「お客さんをじっくり観察する」ということが、マーケティングセンスを磨くことの出発点であるということを覚えておいてください。

 

日本というのは、モノづくりの国であるため、交易で栄えた歴史が他国ほどありません。

そのせいか「まず、いいものをつくり、それを誰かに売る」という考え方が深く浸透しているところがありますし、そういう発想でビジネスを捉えがちです。

一方で、はるか昔から国や資源をもっていなかったユダヤ人たちは、そのときどきで、相手が求めるものを調達することで、商人として生きてきました。そのせいで、彼らは世界中で富を得ることに成功したといえます。

ビジネスの世界に身を置く人は、自分の仕事の枠の中だけで考えず、もっと周囲の人の欲しがるものをじっくり観察してみるといいと思います。そういった意識が、それぞれの仕事に大きなチャンスをもたらすはず、と私は思っています。