「残酷すぎる成功法則」エリック・バーカー

ハーバード大学のショーン・エイカーの研究でも、大学での成績とその後の人生での成功は関係がないことが裏付けられた。

700人以上のアメリカの富豪の大学時代のGPAはなんと「中の上」程度の2.9だった。

 

同調性(人と仲良く付き合っていくことを重んじる性格)の低い人間の方が、同調性が高い人間より年収が約1万ドル多いことが明らかになった。

ちなみに財政面の信用度(クレジット・スコア)も同調性が低い人間の方が高い。

 

「適度な信頼」と題された研究で、被験者は他者をどの程度信頼しているかを10段階評価で答えるように言われた。

すると、「8」と答えた人々の所得が最も高かった。

9以上と答えた人々の所得は、8と答えた人々の所得より7%低かった。

では、一番苦労しているのは誰か?なんと信頼度が最低レベルの人々の所得は、8と答えた人々の所得より14.5%低かった。

この損失は、大学を卒業していないことによる損失に匹敵する。

 

人々は、失敗したことより行動を起こさなかったことを2倍後悔するという。

なぜだろう?私たちは失敗を正当化するが、何も試みなかったことについては、正当化できないからだ。

さらに、歳を重ねていくにつれ、人は良いことだけ覚えていて、悪いことは忘れてしまう傾向にある。

 

膨大な時間を費やすことなく、生産性を高めることができるだろうか?

もちろん、ある程度までは可能だろう。しかし、才能と効率が同等なら、より多くの時間を費やす者が勝つ。

120前後のIQなしに、革新的なものを生み出したり、歴史に名を刻んだりすることは稀だという。しかし意外なことに、120を超えてしまえば、それ以上IQの数値が増えても業績への効果はほとんどないことが調査で明らかになった。

では違いをもたらすものは何か?運ではない。投入された時間数だ。

 

創造性に富んだ天才が性格検査を受けると、精神病質(サイコパシー)の数値が中間域を示す。つまり、創造的天才たちは通常の人よりサイコパス的な傾向を示すが、その度合いは精神障碍者よりは軽度である。

彼らは適度な変人度を持つようだ。

創造的分野で大成功しているアーティストは、活躍がそれほどでもないアーティストに比べて、サイコパシー傾向が著しく高い数値を示すことが証明された。

また、別の研究でも、功績が華々しい大統領は、サイコパシーの度合いが高いとされている。

 

自分を改善することは大切な心掛けだが、私たちの根本的な個性はそれほど変化しないことが研究でも示されている。

たとえば話すときの流暢さ、適応性、衝動性、謙虚さなどは、幼少期から成人期を通してほぼ変わらない。

 

日常生活で自分が得意なことに費やす時間が多ければ多いほど、ストレスが軽減され、よく笑い、周りから敬意を払われているとより強く感じると証明されている。

 

道徳的な人々は幸福度が高いことが調査で裏付けられている。

かなりの不正行為をしても平気な人より、社会的道徳を重んじる人の方が、人生に対する満足度が高かった。

 

お金で幸福が買えるか否かについては多くの議論が交わされているが、一つの領域にかぎっては、調査で結論が出ている。すなわち、お金は大切な人のために使えば間違いなく幸福をもたらすということだ。私たちは自分自身にお金をかけるより、他者のためにお金を使う方が幸せになれる。

勝者になるギバーと、敗者になるギバーの違いは、決して偶然によるものではない。

あまりにも利他的なギバーは人を助けるために自らを消耗し、テイカーに付け込まれ、成功からほど遠い業績しかあげられない。

 

科学者が信頼の問題を扱うとき、よく根拠にするのが「囚人のジレンマ」というゲーム理論だ。

どの倫理システムが優勝しただろうか?

衝撃的なことに、最終的に利得の合計が最も高かったのは、最も単純なプログラムだった。

それはたった2行のコードから成り、しかも誰もが子供のころから馴染みのある戦略、「しっぺ返し」だった。

この「しっぺ返し戦略」は、「囚人のジレンマ」の初回ラウンドではまず協力し、その後は前回のラウンドで相手が選んだ選択を真似し続けるというものだ。

つまり、前回相手が強調したなら、今回自分も強調する。前回相手が裏切ったなら、今回自分も裏切るというわけだ。

「しっぺ返し戦略」を改良した「寛容なしっぺ返し戦略」はより優勢になった。

単純に相手の出方を真似るだけでなく、たまに裏切られた後でも許し、協力する態度を示した。

しっぺ返し戦略が成功した大きな要因は、協力的で、寛容で、他のプレイヤーにとって対応しやすく、それでいて必要とあらば報復も辞さない点にあった。

しっぺ返し戦略の成功から学べる4つの教訓、それは「相手を妬まない」「自分から先に裏切らない」「協調であれ裏切りであれ、そっくり相手に返す」「策をろうさない」。

 

仕事を選ぶときには、一緒に働くことになる人々をよく見ること。

というのは、あなたが彼らのようになる可能性が高いからで、その逆はない。あなたが彼らを変えることはできないのです。

なんとなく自分と合わないと思うなら、その仕事は上手くいきません。

 

良い営業マンになる秘訣は、楽観主義であること、その一点に絞られるという。

研究者たちは、「楽観的傾向で上位10%に入った外交員は、悲観的傾向で上位10%だった者より売り上げが88%多い」ことを発見した。

 

たえずささやかな成功が得られる方が、ときどき大きな成功を手にするより、幸福感につながることがデータによって示されている。

「大きな功績にしか関心を示さない者より、小さな成果を途切れなく感じている者の方が、人生に対する満足度が22%高い」という。

 

ドラッカーは、時間が最も希少な資源だと考えていた。

彼が人々に薦めた第一の防衛策はスケジュール管理の向上ではなく、自分の目標を達成するうえで、その進捗に寄与しないすべてのものを断つことだった。

ジム・コリンズは、失意から方向転換し、めざましい飛躍を遂げた企業を対象に徹底的な調査を行った。その結果、それらの企業が行った大変革のほとんどは、新たなイニシアティブに関連するものではなく、収益をあげない事業の廃止だったことが明らかになった。

 

おまじないやそれに類する行動、お守りなど、幸運を呼び寄せるとされる迷信は、実際にゴルフのスコアや、運動能力、記憶力、回文ゲームなどの能力を上げることが証明された。

これらは人々に自信を与えることによって、そのパフォーマンスを向上させる。

 

仕事経験が15年以上で、経験した役職が2つ以下だった者がCEOなどの経営幹部になる確率はわずか2%だったのに対し、経験した役職が5つ以上だった者が経営幹部になる確率は18%にものぼった。

専門外のことを試みることは、大きな成功と相関関係にある。

卓越した科学者の場合、趣味を持つ人の割合が一般人の2倍近くにもなる。そしてノーベル賞受賞者ともなると、その割合は一般人の3倍だ。

日頃と異なる分野で異なる課題に向きあうことは、ものごとを別の視点から見て、思い込みにとらわれずに解決策を見いだすことに役立つ。多くの異なる発想をぶつけ合うことは、創造性を高める鍵となるのだ。

 

お金についていえば、外交的な人の方が稼ぐことがいろいろな調査結果で示されている。

スタンフォード大学がビジネススクールの卒業生を20年間調査したところ、成功者のほとんどが典型的な外交型人間だったという。

さらに、子供時代まで遡った調査もあり、「児童期に外交的だった人は、外的な成功(地位、高収入など)を手に入れる確率が高い」という。

また、お酒を飲む人は、飲まない人よりお金を稼ぐ。ただし喫煙する人にこの傾向は見られない。飲酒の習慣がある人の収入は、飲まない人の収入を10%上回っている。また、少なくとも月に一度酒場に行く人は、たんに飲酒の習慣がある人の収入をさらに7%上回った。

飲酒は喫煙と違って社会活動であり、飲酒の増加は社会関係資本の増加をもたらすからだと研究者たちは推測している。

 

内向的な人のとびきりの強みは、それぞれの専門分野でエキスパートになれる可能性が、外交的な人よりはるかに高いということだ。

学校で優秀な成績をおさめる者や、博学になる者を予測する材料は?IQではない。じつは知能より判断材料となるのは内向性である。

 

劇的に人生を変えた人々を対象に行った調査によると、多くの場合、彼らの人生を形作ったものはある重大な変化ではなく、自分があんな風になりたいと思った人々から成るグループに参加したことだった。

また調査によると、人は、一つだけでなく、いくつもの社会的集団に帰属する方が、困難から立ち直る回復力が高まり、ストレスを乗り越えやすくなるという。

 

世界で最もクリエイティブな91人にインタビューをしたチクセトミハイは、これら超一流の人々の共通点を見い出した。

ほぼすべての人が大学時代までに、彼らにとって重要な役割を果たすメンターについていることだった。

企業幹部を対象に調査を行い、被験者の3分の2にメンターがいて、そうした役員は平均給与が高く、また自分の仕事に対する満足度も高いことが分かった。

メンターを得た起業家はそうでない起業家に比べて7倍の資金を調達し、3.5倍も速く事業を成長させていたという。

メンターは一人と決める必要はない。企業幹部のメンターの数の平均は2人で、女性幹部では3人だった。

 

あなたのために特別に骨を折ろう、とメンターが思ってくれるのはどんなときだろう?

それは、考えられるすべての途を試したが、もはやメンターの助けなしには万策尽きました、とあなたが証明できたときだ。

足手まといにならない程度にメンターとの関係を維持するためには、メンターの助言を実行し、成果を得て、状況が改善したことを報告しよう。それこそがメンターの望んでいるものだ。

「私は(指示された宿題をした)そして(強い印象を与える次のステップ)は(該当する内容)ではないかと考えました。しかし、ぜひとも先生のご教示を賜りたいと思います。(綿密に考えた戦略A)と(綿密に考えた戦略B)のどちらが良いと思われますか?」

このようなやり取りが、会話のように行ったり来たりの交流になることが望ましい。

 

企業をだめにするのはどんなCEOか知りたいだろうか?

株主に向けた年次報告書で、CEOが何回「私」という言葉を使っているか数えてみればいい。「私」の連発は、企業の死を招くという。

 

自信に満ちた妄想は、何かを達成するのに役立つが、何かを変革するのを困難にする。

私たちは、確信がないときの方が、新しい考えを柔軟に受け入れ、受動的にも能動的にもアンテナを広く張って新たな情報を求める。

自信が不足していると人は悲観的になるが、悲観主義が野心とコンビを組むと、目覚ましい業績をあげることがよくある。

 

有意義な仕事に従事し続け、精一杯働いた者が、最も長生きしたのである。

ここでの有意義な仕事とは、「自分にとって重要」「自分が得手とする」の双方を満たすものをいう。

一方、あなたの寿命を短くするものは何か?失業だ。職がない状態は、若死にするリスクをじつに63%も高めるという。

 

人々の幸福度は生涯に渡って比較的一貫していることが示されている。

結婚は幸福度を増すが、数年後には、結婚前のレベルに戻る。

配偶者が亡くなれば、平均7年は悲しみが増すが、それ以降はやはり基準値に戻る。

しかし永続的に気持ちの激しい落ち込みをもたらす要因もある。

大病の経験や離婚、それに失業だ。実際、再就職した後も、幸福度は完全には回復しない。職を失った経験は、心に生涯消えない傷を残すという。

 

古代ローマにはすでに、「子供か、本か」という言葉があったという。

もしあなたが真摯に何かを生み出そうとすれば、家族を犠牲にすることになる。

完璧主義の傾向が強い人々は、配偶者と満足な関係を持てる可能性が33%低いとの研究結果もある。

少なくとも男性の場合、結婚は、科学者、作家、ジャズミュージシャン、画家、さらには犯罪者の生産活動に著しいマイナス効果を及ぼすという結果が報告された。

科学者は結婚後、ただちに研究活動が衰えるが、未婚の科学者は、晩年まで偉大な科学的貢献を続ける。

これらはすべて、あなたに「究極の夢の職業」があった場合の話だ。

 

大半の人は、午前中最初の2時間が生産的だと調査で分かった。

起きた直後ではなく、あなたが7時に起きたとすると、だいたい8時から10時半頃までが最も生産的な時間になる。

 

「コントロール感」は、私たちのやる気を高めることが証明されている。

自分で状況を変えられると思うと、熱心に取り組む傾向が強まる。

しかも面白いのは、都合がいいことに、実際に状況をコントロールできていなくても、こうした変化が起こることだ。つまり、肝心なのはコントロールできていると「感じる」こと。

 

成功者となるために、覚えておくべき最も重要なことは何だろう?

一言でいえば、それは「調整すること」だ。

成功とは、一つだけの特性の成果ではない。それは、「自分はどんな人間か」と「どんな人間を目指したいか」の2つを加味しつつ、そのバランスを調整することだ。

成功の秘訣は、たとえばあなたの強みであるスキルを最適な職務で活かすこと。周りをギバーに囲まれたギバーになること。あるいは、あなたが前進できる形で社会と繋げてくれるストーリー。あなたを助けてくれるネットワークと、あなた本来の内向性、外向性を活かせる仕事。また、ものごとを習得するときも、失敗した自分を許すときも、たえずあなたを前進させてくれるセルフ・コンパッション(自分への思いやり)。そして、多方面で豊かな人生を作る4要素間(幸福感=楽しむ、達成感=目標を達成する、存在意義=他者の役に立つ、育成=伝える)のバランスである。