「数値化の鬼」安藤広大

感情に訴えかける表現は、最後の味付けのようなものです。

人間ですから数字だけで動かない面もあるでしょう。そこで最後に熱を伝える、というのが正しい順番です。あくまで数字が先です。

識学の教えには、上司は部下の「プロセスを評価しない」という考えがあります。

これは、ゴールである「目標(数値化されたもの)」を設定したら、あとはどのように部下がそれを達成するか、その選択の権限を与えることを意味します。

目的地さえ決めてしまえば、そこまでの行き方は自由なのです。自分で業務内容を改善して、初めて人は成長するということです。

量をこなすと次は質にこだわるのは当然でしょう。

しかし、「量」よりも「質」が上回り、「質を上げること」が目的になってしまうことは大問題です。

あくまで「行動力ファースト」であり、それをキープしたまま「確率も上げていく」というのが正しい順番です。

この順番を間違えてしまうのが、「働かないおじさん」への第一歩なのです。

若手の頃はたくさん量をこなしていた人が、急に数をこなすことをやめるケースがあります。

それは、「失敗すること」が恥ずかしくなってくるからです。

たくさん数をこなしていると、そのうちどんな仕事でも勘どころが分かってきます。すると「これは失敗するな」というアンテナが反応することが増えます。

その先に待っているのは「評論家」です。

評価に「連続性」を持たせるためにはどうすればいいのでしょうか?

メンバー全員が成長を目指し、「働かないおじさん」を一人でも生み出さないためには、方法は一つです。

それは「マイナス評価」を取り入れることです。

多くの企業では、評価制度は「加算方式」です。現状維持の人は「0点」、頑張った人にはその度合いに応じて「1~4点」をプラスする。

ただ現実には、評価には「良い」と「悪い」しかないと思うのです。評価に「ゼロ」はなく、「プラスかマイナスか」に分けないといけないのです。

この制度を取り入れると「現状維持はヤバい」ということが個人にも認識できます。

「ダメだった=ゼロ」としてしまうと、ダメで当たり前であり、現状維持してもいい感覚になる。

マイナスの人にマイナス評価をつけて、「このままではまずい」ことを認識してもらいます。

マイナス評価の人の給料を下げる分、貢献してくれた人にはプラスの給料を与えることができます。

「2:6:2の法則」を聞いたことがあるでしょうか?

人が一カ所に集まって放っておくと、「優秀:普通:無能」に分かれると言います。

これが示しているのは、集団を自然状態にしておくと、「2:6:2」になるということです。

会社組織でも似たようなところがあり、「マネジメント不要」という組織にしてしまうと、この割合になってしまいます。

組織マネジメントをするということは、この「2:6:2」の状態を「10:0:0」に近づけていくことです。

優秀な結果を出したら、評価に繋げて表彰し、優秀な結果を出したら、評価に繋げて表彰し、優秀な人の手法を、いち早く全体に取り入れるようにするのもマネジメントの役割です。

結果を出すためには「変数が何か」「どこに変数が隠れているか」ということを、試行錯誤して見つけ出さないといけません。

ここが仕事の成果に直結します。

まずはプレーヤーとして、自分の仕事の変数を見つけられること。次に、マネージャーや経営者として、マイナスに繋がる変数を減らすこと。

いくら努力しても変えられない部分、つまり「定数」はさっさと諦めることです。

プレーヤーとして成長する過程で、目標と結果以外は管理されないようにシフトしていくことが求められます。

最近の多くの企業は、いつまでもプロセスの管理をしてしまっています。まさにこれが、いつまで経っても社員や部下が成長しない原因です。

仕事のプロセスを分けて、どこが問題なのかを探しながら試行錯誤する。

これを「自分でやって、自分で解決する」からこそ、勝手にモチベーションが上がっていくのです。上司や会社が踏み込む問題ではないのです。

いつまでたっても部下を子供や新人扱いするから、モチベーション管理までを上司がやっているのでしょう。

しかし、それが成長を止めていることに、お互いが気付く必要があるのです。

やったことが変数だったかどうか。

それを見極めるのが「PDCA」の「C(評価)」と「A(改善)」です。

やったことに勝手に意味づけをするのではなく、明らかに結果や成果に繋がったことを見つけ出す。

その確認作業が「C」でやるべきことなのです。

そして必ずセットで「次はどうするか?」の仮説を考えることです。これが最後の「A(改善)」の段階です。

「C」で数値化して確認ができれば、次のアクションに移ります。

・上手くいっていたのなら、その調子でもっと攻める

・失敗したり未達だったりしたのなら、他にどんな方法があるかを考える

その二択しかありません。

ここで他者の評価を受け入れなかったり、自己評価が高すぎる人、失敗を失敗と認めない人は、成長が止まります。

「これが変数だった」という体験談やノウハウをあなたはどう受け止めるでしょうか。

これが絶対的な成功法則だと思うでしょうか。

ただ、これはあくまで仮説です。

それを受け入れて試してみて、あなた自身の目標の達成に数字的な変化があるのであれば、「仮説」が「変数」になります。

上司の成功法則は、あなたにとっては「仮説」です。

時代が違いますし、能力や素質も違います。

だからこそ、「具体的なプロセスは教えるべきでない」と何度も伝えています。

成果が出ていないプレーヤーやチームがいるとします。

彼らが、上手くいっている他のプレーヤーやチームに「どういうやり方をやっていますか?」と聞いた場合、聞かれた側は積極的にオープンにすべきです。

優秀なプレーヤーから学んだり盗み取ったりするのも健全な競争では起こることです。

知識のブラックボックス化を許さないのは、組織で働く上では大事なことです。

自分一人だけうまくいっていても、そこで満足してしまうと組織全体の成長には繋がりません。

仮説という前提で、知識をシェアするようにしましょう。

売り上げが落ちたり、成績が落ちてきたりしたとき、冷静な判断ができなくなることがあります。

すると、手あたり次第に思いついた方法をやってみたり、過去の成功例を引っ張り出したり、急に現場の意見を集め始めたりします。

そうではなく、「数字」を探り出すのです。

店舗で客商売をしているのであれば、

・来客数は何人なのか

・単価はいくらなのか

・リピート率は何%なのか

などの数字を洗い出してみます。

そして何が売り上げに影響しているかを「なぜ?」を問いながら考えます。

「このKPIが売上に直接関係している」という仮説を立てて、その1点だけに狙いを絞ります。

仮説を立てたのなら、それを実行し数字として成果が出ているのかを検証します。

この繰り返しが、個人の成長を生みます。

それ以上でも以下でもありませんし、これ以上の近道も王道もありません。