「売上最小化、利益最大化の法則」木下勝寿

経営者の立場から言えば、会社のピンチを救うのは現金預金しかない。

キャッシュがあれば、赤字になったときに備え、どんなトラブルやアクシデントにも対処できる。

BtoBではリターンが計算できないと投資しないが、BtoCでは「よいものさえ作れば売れる」ので景気の波を受けにくい。

ネットビジネスではマメに利益を回収すべきだ。

変化の激しい今の時代、先行投資期に売上が上がっても、回収期には市場がガラッと変わり、利益が回収できないケースが多発している。

だからこそ売上と利益をセットで管理する経営方式が必要だ。

利益が同じ場合、売上が多い方がリスクは大きい。

経営していると実感するが、想定外のアクシデントは常に起きる。

そしてアクシデント量は利益ではなく売上に比例する。商品数、顧客数などが多いからだ。

「売上最小化、利益最大化」を目指すには、まず「少産少死」の経営を徹底する。

商品は一生売り続けるつもりで開発する。ダメになったら廃番にしようと考えず、ロングセラー前提で商品開発を行う。

何かの本に矢沢永吉さんの言葉が書かれていた。

「一回レコードを買ってくれたお客様とは一生付き合っていく」

私も、うちの商品を一回買ってくれた人とは一生付き合うつもりでやっていこうと思った。

こうして「北の達人」の事業モデルが確立された。

一言で言えば、「DtoC」×「サブスクリプション」だ。

品質の高い商品でロングセラーを狙うビジネスモデルで、定期購入による売上比率は約7割と高い。これが利益を生み出す源泉になっている。

利益目標の設定を毎月、見直す。

利益に繋がらない仕事を見つけたらやめる。

このときグロスで利益を見るだけでは足りない。業務ごとに利益を管理する。業務ごとに採算が合っているかを見て、合っていないところはすべて切る。

「この広告を打つことで、いつか利益が上がるだろう」と期限も根拠もないことを言ってはいけない。

売上と利益は対比するものではない。

利益が絶対の目的であり、売上はそのプロセスだ。

本業では北海道の特産品を扱っていた会社が、副業として始めたから品質にこだわることができた。

よいものができたら売るし、できなかったら売らない。ここは絶対のルールだ。

一般的に、新規顧客を獲得するコストは、既存顧客の5倍かかると言われている。

新規顧客は獲得コストが高いにもかかわらず、利益率は低い。

よって新規顧客の獲得以上に、既存顧客の維持が重要なのだ。

既存顧客は中長期的に商品を購入し続ける生涯顧客となる可能性が高い。

リピートされるかどうかは顧客満足度にかかっている。

顧客満足度は商品の品質に比例するが、一つだけ盲点がある。

それはお客様が「使い方を間違えている」場合だ。

そこで当社は商品に同封する「使い方マニュアル」の作成に力を入れている。

特産品の通販サイトをやっていた頃の当社のキャッチフレーズは「おいしかったと言っていただけるまでが仕事です」だった。

よいものを作って終わり、送って終わりではないのだ。

1回目の購入はマーケティング力が大きい。

使ったことのないモノを買うのだから、必ずしも「品質のよいもの」が売れるわけではない。「よさそうなもの」が売れるのだ。

一方、2回目以降のリピート購入の場合は、品質力が大きい。

ブームという点で「行列のできる店」を考えてみたい。

行列ができている現実を経営的観点で考えてみると、「機会ロス」だ。

その際、店舗を拡大したり、人を増やしたりして供給量を上げて行列をなくしたらどうなるだろう?

ここで分かれ道が待っている。

一つは機会ロスをなくしたことで売上が上がる店。

もう一つは行列がなくなったことで希少価値が下がり、売上が下がる店だ。

前者は「品質」でできた行列であり、後者は「話題」でできた行列だ。

目立たないプロモーションで売上が上がると、競合が生まれないので永続的に成長できる。目指すべきはココだ。

ターゲット外の人はその商品の存在すら知らない。

それは競合が生まれにくいということでもある。

広告の目的は目立つことではない。利益を生み出すことだ。目立たないプロモーションが一番利益を生む。

「知名度がないのに売れている」が本物の証拠であり、誇るべき事象だ。

(知名度は必要ないというわけではなく、知名度は必須条件ではないという意味だ)

周りから有名でかっこいいと思われたいのか、利益を出したいのかによって、やるべきことは変わる。

当社は、知名度を上げるためだけの無駄なことに、お金も時間もかけないから利益が上がっている。

商品を必要とするお客様だけに知ってもらい、そのお客様と長くお付き合いする。

少しずつお客様が増え、結果的に知名度が上がるのが理想だ。

私は「演歌歌手はなぜテレビに出ないのに売れるのか」を考え続けた。

のちに音楽業界の人に聞いた話だが、演歌歌手は「お客様と直接会って握手をすること」を大事にしているという。

テレビで見るだけの人気歌手より、実際に握手した歌手の方が親近感が生まれるし、応援したくなる。

ボーカルのTERUさんは、ファンクラブの掲示板の中でファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる。

顧客に愛され続けるには「特別感」を提供し、ロイヤリティを持ってもらうこと。

そのためには、一対一のコミュニケーションを提供することが重要。テレビで関係性の薄いファンを作るより、関係性の濃いファンを作る方が効率的だ。

楽曲だけで勝負しているアーティストは、楽曲の出来不出来にヒットが左右される。

「この曲は良かったが、この曲は良くなかった」というので常に不安定だ。

一方、ファンとの関係性を築いているアーティストは常に安定している。

1980年代に秋元さんがプロデュースしたおニャン子クラブは、テレビで流行ったものの、一過性のブームで終わってしまった。

そこでAKB48は、おニャン子クラブにはないコンセプトにした。

秋元さんはマーケティングの本質が一対一であるとして、ファンを一人ずつ作っていこうとしたのだろう。

AKB48の「一対一」を象徴する「握手会」は社会現象となった。AKB48も演歌の戦略なのだ。

北の達人には「商品カウンセリング課」がある。

商品を販売するときは、どんな問い合わせが来ても答えられる状態にしてから発売する。

ここの部署にはルールがある。

それは「商品を売ってはいけない」ことだ。

お客様から商品の使い方に関する問い合わせがあったときに「もう1個追加でほしい」と言われたら、「販売部に転送します」と言うよう徹底した。

人が劇的に変わるのは多くて10年に1回。普通は20年に1回くらい。

「人は変わらない」という前提で、仕事の仕組みを考えるべきだ。

その人が得意なことだけやる仕組みにする。

部下が変わるのではなく、マネージャーが仕事を仕組化する能力をつけることだ。

常に業務を俯瞰的にとらえ、仕組みを再構築する能力がマネージャーには求められる。

人の価値観は時代と共に変わっていくから、常に聞き取りが大切だ。

だからこそ、総合職、業務職、パート・アルバイトの人に募集広告のキャッチコピーを見てもらい、どんなところに興味が沸くかをいつも聞いている。

デジタルプロダクトマーケティングの肝となるのが差別化戦略だ。

「カーナビの渋滞理論」というものがあり、みんなが同じカーナビを使うと渋滞が起きる。

GoogleやFacebookなどは、世界中で同じカーナビを使っているようなものなので、きちんと差別化していないと世界中が競合になる。

購買理由を考えることが重要だ。

理由を考える力は日常業務をやりながら経験を磨くしかない。

あとは、恥ずかしがらずに人に聞くことだ。

人間行動が数値化されているので、「こんな動きがあるけれど、なぜだと思う」と聞くと、ターゲットの人は即答できる。当事者や現場の人はすぐに分かるので、どんどん聞いてみよう。

当社は「びっくりするほどよい商品を作る」

「ブームに乗らない方針」

「世界最高峰のネットマーケティング集団」

として株価上昇率日本一の超効率経営を目指してきた。