「口コミ伝染病」神田昌典

広告宣伝のお客は、値切る。紹介された客は、感謝する。

口コミを活用することは、利益アップだけではない。社員の精神衛生上にとってもプラスなのである。

お客に感謝されれば、社員は嬉しい。その結果、社員はお客を笑顔で対応する。その笑顔に、さらにお客が引き寄せられてくるという善循環が起こるようになる。

一度仕組みができたら、一気に全国展開した方がいいよ。

反応率は全国的に悪くなっていく。だから上手くいった仕組みは一気にやった方が良い。

チャンスは一瞬にしか訪れない。そのチャンスを逃してしまうと、次のチャンスはなかなか来ない。

だから時流に乗っているときに、広告宣伝を利用して、集められるだけ、お客を集める。その後は、口コミを中心とした営業に変更していくのが望ましい。

つまり広告宣伝の反応が一切なくなってしまっても、口コミ・紹介だけで十分ビジネスができる体制を準備しておくのである。

賢い中小企業は、導入期の商品を販売しようとする場合に、広告宣伝に大金を投入するようなことはしない。この時期は、マスコミに記事を書いてもらえるようにPR活動を重視したり、また本書のテーマである口コミを仕掛けていくのがベストな方法である。

ここで注意してほしいのは、私は「販売する商品を絞り込んでほしい」と言っているわけではないということ。広告する商品を絞り込んでほしいのだ。

来店した後は、商材がいっぱいあっても問題はない。

成熟期の業界に参入する場合には、単品で切り込んで、効率的に顧客リストを集める。その後に、商材の幅を広げる。これが効率的な戦略になっている。

成熟期に入った場合は、専門化することで、広告宣伝の反応をアップすることができる。

成長期には、費用対効果的に広告宣伝を活用し、一気に顧客リストを集めておく。そして、その好調な時期が終わる前に、成熟期に向けて、口コミ・紹介という金がかからないシステムを準備しておくのが、最も安定的に収益を確保できる方法となる。

口コミになるには、商品品質だけではなく、劇的な体験や伝言ゲームをスムーズに行っていくための仕掛けが必要になる。

お客は売る側ほど商品知識を持っていないから、品質について正確に判断できない。そこでお客は自分が違いを認識できるところで、全体の品質を判断する。

お客が最も期待しないのは、どの部分か?そこで、どんな劇的な瞬間をお客様に体験させることができるか?これが、あなたの会社が口コミを誘発させるためのポイントだ。

お客が一番関心を持っているのは、自分のこと。あなたのことはどうでもいいのである。

お客は、その喜びを文章にまとめることにより、自分の考えが明瞭になる。一度文章でまとめると話しやすくなるというのは、あなたにもご経験のあることだろう。すると、まわりに伝えることが簡単になる。つまりお客様の声は、口コミをしてもらうために、お客に自主トレーニングをやってもらっているようなものだ。

不幸というのは、そこにあるものではない。演出するものなのである。

不幸の真っただ中にいる人は、決して自分が不幸だと思っていない。とにかく毎日を乗り切るために、精一杯なのである。また不幸の中にも、楽しいことはある。だから本人は、日常生活の延長線上にあるのだ。つまり、不幸だということを人に伝えるためには、自分が不幸であるということを演出するところにポイントがあるわけだ。

災難は人の注目を集める。そして災難は、自分で演出するものである。

人は物語を覚えやすい。そして物語は人に伝えやすい。

この物語を使うというテクニックは、特にブランドがない会社が信用力を高めるうえで絶大の力を発揮する。

目的は、会う前に、もしくは一度も会わずに、私の事を信頼してもらうことである。

商品のスペック・仕様には、人は感動しない(オタク以外は)。しかし、その開発の苦労話には感動する。そしてその物語は、語り始める人がいて、初めて生まれる。

敵がいない企業は、ミッションもない。ミッションがない企業は、敵がいない。

使命とは次の○○を埋めることである。

「私どもは、○○を断固拒否します」

このように戦う姿勢を見せるのである。「私たちの使命は、お客様に健康と豊かさをご提供することです」というのではなく、例えば次のように表現する。

「私どもは、たとえ利益が出たとしても、現在、そして将来にわたって、お客様の健康を脅かす危険性のある商品を販売することを断固拒否します。生活者の視点で、本当に納得いくものだけを提供し、あなたの家族の健康と豊かさを守ります」

悪と戦う姿勢を取ることで、他人にもミッションが感じられるようになる。明確な企業ミッションは、口コミになる。

お客をヒーローにするのである。ヒーローになったお客は、しゃべりたい。しゃべらないと我慢できない。禁断症状に陥る。

ヒーローになったお客がしゃべるだけではない。それは、友達の話題になる。友達の噂ほど楽しいものはない。だから口コミになりやすい。

お客をヒーローにするのは、決して難しいことではない。広告に掲載するまでのこともない。

今月のお客様。今月の王様。女王様。

今月のお客様の声大賞。今月の伝言ゲーム優秀賞。

ネーミングを考え出せば、それでOK。しかも景品はあまり負担にならないようなちょっとしたもので十分なのだ。

誰でも自分がヒーローになれる機会はそんなにあるものではない。

まずお客をヒーローにする。するとお客は、あなたの会社をヒーローにしてくれる。

人材募集の広告では、「誰でも働きやすい会社です」というコピーでは集まらなかった。

そこで「滅多に募集しない当社ですが、優秀な人材を若干名募集します」とした途端に応募が相次いだ。

人間は、自分が属するコミュニティに愛着を感じれば感じるほど、どうしようもなくしゃべりたくなってしまう。そして、他人をそのコミュニティに引きずり込もうとする。

それでは、どうすればあなたの会社にお客のコミュニティを作ることができるのか?

これには最低限、やっていただきたいことがある。

お客を絞り込むのだ。

あなたが付き合いたい客に絞ってほしいのだ。これがコミュニティを作っていくための最低条件だ。

理想のお客をリストアップする。理想のお客はあなたがそれだけ愛しているわけだから、それにふさわしい最高の待遇を提供する。

すべてのお客を愛そうとするから、誰も愛せない。潔く、いらないお客はゴミ箱に捨てる。こうすることにより、逆にこの会社に選ばれたお客は自分のコミュニティを感じることになる。そして、自分に共感する仲間を増やすために、外に向かって、このコミュニティの情報を発信していくようになるのだ。

羊の群れに、先頭に鈴をつけた羊がいるように、口コミ・紹介をしてくれるお客には、偏りが見られる。要するに、全員がまんべんなく誰かを紹介するのではない。お客を紹介する人は紹介するし、紹介しない人は紹介しない。

お客には紹介が好きな人と紹介にあまり関心のない人がいるのだ。紹介が好きな人は少数派だが、大量にお客を紹介してくれる。この紹介好きの少数派が、口コミ伝染におあける鈴をつけた羊になる。

影響力のある人材、信用力のある人材はピックアップしていく。例えば、学校の先生、政治家、経営者、マスコミ、新聞記者等、その他しゃべる職業に就いている人材等。このような職業は、情報の発信役となることが多い。

お客全員に同じくらいの労力をかけるのではなく、紹介しやすい傾向がある影響力のある少人数に、社内リソースを使っていくわけである。

たとえば、お客からこんな電話がかかってきたとする。

「工藤さんから、紹介されたんですけど…」

そのときに、次の魔法の質問をするのだ。

「工藤さんは私どものことをなんて仰ってました?」

この一言が強力である。

この単純な質問で、どんな状況でどんな言葉を、トップ紹介マンが使っているか分かるということ。さらにもう一つの効果として、お客が自己説得する効果がある。つまり、自分がしゃべっているうちに、自分を説得してしまうのである。

今までの伝染プロセスをまとめると次の通りである。

■口コミが伝染していくためには、伝染力のある人が必要である。それは一人ひとりのお客が、少人数を紹介していくパターンではなく、一部の強力な紹介マンが大量の人に向かって情報を発信するというパターンをとる。

■150人を目安として、口コミ活動の中核となる紹介マンを選出する。その選抜基準は、①過去に紹介をしてくれた人、②紹介されてお客になった人、③オピニオンリーダーやキーマンとなる。

■口コミの伝染プロセスを構築するために重要なことは、口コミが起こるその一瞬を詳細に描写することである。その結果、一体「誰が」「どの商品を」「どこで」「どんなきっかけで」「どのように」しゃべっているかが分かる。

パーソナルな情報を入れることが大事である。具体的には、担当者が結婚した、子供が生まれた、旅行にいった、こんな大失敗をした等々。このような個人的な近況をお知らせする。

なぜ個人的な情報を発信するのか、といえば、パーソナルな情報を出せば出すほど、相手も身近に感じてしまうという法則があるからである。全く面識もないにも関わらず、その人の身の上話を聞いた途端、なぜか以前から知っているような錯覚に陥る。

最近のお客の悩みというのは、あまりに商品情報が氾濫していて、何を、どういう基準で選んでいいのか、分からないということだ。その結果、最も簡単な購買判断の基準として、安い価格を求める。つまり、お客が安値に流れるのは、最安値の商品をお客が求めているわけではなく、良い商品の見分け方を教えない売り手の責任である。

お客様の声を大量に集めるためには、どうすればいいのだろうか?

答えは簡単。お客様の声を集めることをゲームにすればいい。

「あなた様は弊社商品をどのようにご愛用いただいておりますでしょうか?様々なご利用方法・ご感想をお教えください。お寄せいただいた方には、お礼といたしました、商品クーポン券1000円分、そして最も優れた感想文をお寄せいただきました方には、お友達3人と行ける温泉旅行にご招待させていただきます」

このようにお客様の声を集めるゲームを企画する。