「サクッとわかるビジネス教養 地政学」奥山真司

・地政学で最も大事なのは地図。紛争や対立はすべてを地図と共に説明できる考えられている

・半島にある国は、陸続きの付け根以外の周囲を海に囲まれているため逃げ場がなく、周囲の強国の影響を受けやすくなる。朝鮮半島も昔から今日まで中国の強い影響を受けている

・世界の覇権を握るアメリカの基本戦略は、ユーラシア大陸の3つの地域をバランスを見ながらコントロールすること。ヨーロッパではロシア、アジアでは中国、中東ではイランが強くなってきた場合に周辺各国と協力して抑え込む

・中国は漢民族が92%を占めるが、その他50以上の少数民族が存在する。その中でも多いのは0.9%のチベット族、0.9%の満州族

・中国は国防費(17兆円)より治安維持費(20兆円)が上回る珍しい国。反体制派の監視やネット上の政治的内容の削除なども含まれる

・中国は2017年初めて海外(東アフリカのジブチ)に軍事基地を設置した

・中国が近年、南シナ海や尖閣諸島に進出しようとしている理由は、2004年にようやく大陸の国境がすべて定まり、国防に使っていた費用を海洋進出に使えるようになったため

・中国には「漢民族が世界の中心でありそれ以外は蛮族である」とする中華思想が伝統的にある。しかし1842年にアヘン戦争でイギリスに敗れてからこの思想が打ち砕かれ、経済大国になった今再び世界一の国を目指し雪辱を晴らしたいと考えている

・1299年から東欧~中東~アフリカ北部を600年以上支配した大国がオスマン帝国。第一次世界大戦で敗れ今のトルコになる。イギリスとフランスとロシアのあいだでオスマン帝国を分割するために結ばれた秘密協定「サイクス・ピコ協定」が今の中東の混乱の一因になっている。イギリスの三枚舌外交と呼ばれる協定の一つ

・毛沢東の死後に中国で実権を握った鄧小平(とうしょうへい)が提唱したのが「第一列島線」「第二列島線」。今の中国の戦力展開の目標ラインとなっている。第一列島線は九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピンが含まれる。第二列島線は小笠原諸島、グアム、サイパンが含まれる。当初、第一列島線を2010年までに支配し、第二列島線を2020年までに支配、2050年までに西太平洋やインド洋でアメリカに対抗できる海軍を建設する予定だったが計画に遅れが出ている。中国が南シナ海や尖閣諸島に進出しようとするのはこの第一列島線を完成させるため

・習近平が提唱したのが「一帯一路」構想。現代版シルクロード。中国からヨーロッパにいたる海のルートと陸のルートのインフラを整備し経済圏を作ることを目指す。経由地となるアジアやアフリカに投資し鉄道や港を建設。返済できない場合に中国が使用権を独占することで問題視されている。ランドパワーとシーパワーを両立させ存続できた国は過去にないため先行きは不透明

・ロシアの北側の北極海は2000年に入り氷が解けたことで通航できるようになった。日本からヨーロッパへ東南アジア経由で行くよりも3割距離が短縮でき、海賊もいないため安全に渡航できる。しかしロシアの許可が必要になり渡航料が不透明である点や補給基地など環境がまだ整っていない点がデメリットとされる

・ロシアは共産主義のイデオロギーで失敗、その後、市場を開放し資本主義での成功を目指し失敗している。その2度の失敗後に大統領になったプーチンは地政学的な視点からソ連時代の領土奪還と影響力の拡大を目指している

・インドでは毎年2500万人の子供が生まれており、2020~2030年のあいだに中国を抜いて世界一の人口になる。平均年齢も47歳の日本と比べ27歳と若く、2050年には日本を抜いて世界3位の経済大国になる予定

・シンガポールが経済的に急成長できた理由は地政学的な優位性があったため。アジアの中心に位置し、マラッカ海峡が近くハブ港としてもともと栄えていた。そこに初代首相が税制上の優遇措置を設けて外資系企業を積極的に誘致したことでアジアのビジネス拠点として発展した

・現在の中東の混乱は第一次世界大戦時のイギリスが原因。フランス・ロシアとのあいだでオスマントルコの分割に関する密約を結ぶと同時に、ユダヤ人から支援を受ける代わりにパレスチナにユダヤ人国家を認める「バルフォア宣言」、アラブ人にオスマントルコの反乱を起こす見返りにアラブ人国家を認める「フセイン・マクマホン協定」を結んだ。これがイギリスの三枚舌外交と呼ばれる

・イスラエル紛争はパレスチナ人(アラブ人)とユダヤ人のあいだで続いている。今のイスラエルの地にユダヤ人が今から3000年前にイスラエル王国を築いていた。国家滅亡後、ユダヤ人は世界中に散らばったがユダヤ教の聖地であるエルサレムのあるパレスチナにユダヤ人国家を再び作ることが悲願だった。その後、第一次世界大戦までパレスチナにはアラブ人が住み、ヨーロッパで迫害を受けたユダヤ人も一部パレスチナに戻り住み始めていた。そこにイギリスがパレスチナにユダヤ人国家を認める「バルフォア宣言」を結んだことで、世界中に散らばるユダヤ人が独立国家を建設するためパレスチナに集結。その後、第二次世界大戦後にユダヤ人国家としてイスラエルが建国されるも、一部地域(ガザ地区等)でパレスチナ自治区が残りアラブ人たちは独立国家を目指している。しかしアメリカやイギリスに強い影響力を持つユダヤ人はアメリカの議会や政策決定に力を持ち軍事支援を行うよう仕向けている

・EUの発足理由はアメリカへの対抗に加えて、再びドイツが力をつけることを防ぐため。しかしユーロ安によって輸出産業に強いドイツは追い風となり結果的にドイツ産業を後押しする形となった

・フランスで近年テロが多発している理由は、アフリカや中東などのかつての植民地から移民を受け入れてきたため。そしてフランスで差別や迫害を受け続けた移民の2世・3世が過激派となってテロを起こすケースが多くなっている

・冷戦でアメリカがソ連にしかけた戦略が「コスト・インポージング」。相手が構造的にコストをかけざるを得ない部分に強制的にコストをかけさせる戦略。ソ連の場合、国境線が長いため低空ミサイルを防ぐための防衛コストが非常にかかるという点を利用して財政を逼迫させた。そしてアメリカは中国に対しても同じ戦略をしかけることが予想されている