「出産に『痛み』はいらない」岩本英熙

2019年12月~2021年5月の1年6か月で、手がけた無痛分娩は約760件。

無痛分娩を行った人は全員麻酔の効果を実感され、また麻酔による重篤な合併症はゼロでした。

さらに分娩時に母体に重い合併症が起きた例や総合病院への救急搬送になった例はなく、生まれた赤ちゃんについても、新生児仮死により救急搬送した例もありませんでした。

2021年5月現在、当院で分娩をされる方の約8割が完全計画無痛分娩を選択されます。

自然分娩で自然に陣痛が起こるのを待つと、陣痛が来るのが予定日を超えることも多く、赤ちゃんが大きく育ちすぎます。

3500gを超える赤ちゃんは低血糖になりやすいなど、赤ちゃんにとっても育ちすぎは良くないことが知られています。

赤ちゃんが大きくなりすぎた場合、分娩のときに母親の骨盤を通過できず、帝王切開になる確率が高くなります。

何の根拠もない「赤ちゃんのタイミング」を待つよりも、「38週前後で2500g以上に赤ちゃんが成長した時点」が母子ともに安全なタイミングなのです。

臨月の直前になる妊娠35週以降は、特に積極的に体を動かしていただくように指導しています。

この時期に安静にしすぎると出産が進みにくい傾向がありますので、出産に適した体づくりをしていただくのが目的です。

分娩計画日当日は、朝の3時から出産の準備を始めます。

当院では、計画日の夕方までに分娩を終えるため、だんだんとスタートが早まり、最近は朝3時が定着しました。

現在は、朝3時に陣痛促進剤をスタートし、経産婦の方では朝7時前後、初産婦の方は朝9時前後に出産される方が多いです。

完全計画無痛分娩で分娩される人の約95%は、出産計画日の午前中には出産が終わっています。

自然分娩の立ち合いでは、痛みに叫ぶ妻を前にして、夫の方がひるんでしまい、何もできずに立ち尽くすだけ、という場合もあります。

中には、夫の気分が悪くなる例もあるため、立ち会う夫を対象に事前に講習会を受けるように義務付けている病院もあります。

緊急抵抗切開になった場合も、入院期間は経膣分娩より1日長いだけで済みます。

経膣分娩では、出産日を0日として産後4日、帝王切開では術後5日で退院ができます。

一般的には出産直後は母乳の分泌は少なく、母乳が良く出るようになるのは産後数日~1週間ほどしてからです。

赤ちゃんの平熱は36.5~37.5度くらいです。

まだ体温調節が上手くできず、環境に左右されやすいため、直射日光や冷暖房の風が直接当たらないようにし、洋服や掛物で温度調節をしてあげてください。

うんちが数日でないでおっぱいの飲みが悪いときは、ベビーオイルをつけた綿棒で肛門を刺激しうんちを出すのを手伝います。

生後2週間のタイミングで健診を行っているのは、この時期に「産後うつ」が起こりやすいとされていることも理由の一つです。

2010~2016年の約7年間で、妊娠中から産後1年以内に亡くなった妊産婦は271例。このうち無痛分娩だった人は14例、割合は5.2%でした。

全分娩のうち、無痛分娩をしている割合は5~6%とされていますから、他の分娩に比べ、無痛分娩での妊産婦死亡が特に多いわけではいことが分かると思います。

また、不幸にも亡くなった妊産婦さん14例の死因のうち、麻酔が原因で起こったものはわずか1例です。そのほかの13例は、無痛分娩でなくても起りうるリスクによるものでした。