「徹底的に敵をヘコます法」ガイ カワサキ

いわゆるマーケティング・ノウハウとは、市場を作る方法ではなく、独占を作ることだ。

つまり、諸君が競争相手に対してなすべきことは、破壊や追放ではなくて、混乱させることなのである。

アップルは、IBMを業界からたたき出しはしなかった。

しかし、IBMをアップルの後追いをするハメに追いやったのである。

よい敵というのは、常に、その産業の第一人者であり、より古く、より大きい会社だ。

対して、悪い敵は、攻撃的で、ハングリーで、たちの悪い戦い方をする新参者ということになる。

巨大な敵に対する場合は、必ずしも、敵を完全に殲滅できなくても、単に市場でシェアを食うだけでも「勝利」として定義づけることができるが、一方、小さい敵に勝つためには、完全に絶滅させなければならない。

【リーダー企業】

リーダー企業は、競争者をヘコますためには最も優れた存在だ。

なぜなら彼らは攻撃的な態度を有しており、さらにそれを実現する人材を抱えているからだ。

リーダー企業はまた競争相手としても理想的だ。というのは、業界トップの優良企業と戦うためには、最善を尽くさざるを得ないからだ。

【成り上がり企業】

成り上がり企業もまた、敵をヘコませるには理想的なポジションにいる。

リーダー企業に比べて人材で見劣りする点は、熱意と攻撃性でカバーする。

しかしながら、彼らは敵としてはあまり好ましくない。というのは、失うものをあまり多く持っていないからだ。

競争相手の調査は、まずトップの人間が始めるべきだ。

ライバル企業(そして顧客)に接近するのは、下っ端の役目だと考えている人が多いが、ウォルトン派会長でありながら自身が調査に出向いている。

意思決定の権限を持ち、情報をそのまま活かすことのできる者が、調査員として最適だ。

競合企業の調査には、必ずしも金や労力をかける必要はない。金よりも、むしろ情熱や熱意がものを言う。

よいアイデアを見つけたら、それを自分用にアレンジすることだ。よい泥棒は盗むべきものを知っているということを忘れてはいけない。

「競争相手の店で最後に買い物をしたのはいつか?」

ウォルトンの例にならえ。

顧客を装って、敵の市場、販売戦略、製品、サービスを視察する。

敵の店に行き、あるいはカタログを取り寄せ、パンフレットを注文するなどして、手に入る限りの情報を集める。

顧客になるためには、店に顔を出すだけでなく、実際に競争相手の製品を買わねばならない。そうすることによって、アフターサービスや、サポート体制、フォローアップセールスの実態を知る機会を確保することができる。

「X(競争企業)についてどう思うかね?」と尋ねてくる客はやはりいるものだ。

「ええ、X社は素晴らしい会社で、私どもとしても多大な敬意を払っています」と答えることをおすすめする。

競争相手を褒めるときは「よい」「素晴らしい」「抜群だ」といった調子の、絶対的な言葉で褒めるように注意すべきだ。

相対的な言葉、たとえば「Xはわが社より良い」といったような言い方は避けた方がよい。鵜呑みにする人もいるからだ。

競争相手の怒りを喚起すべき理由はほとんどない。焦点を合わせるべきなのはあくまで顧客だ。競争相手は適当にあやして寝かしつけておけばいい。眠ってくれれば儲けものだし、起きてこないならなお良い。

私は原則的には、価格よりも価値で戦うことをおすすめする。

単純に言って、価格競争は危険にすぎるし、いずれにしろ顧客にとって価値がありすぎる商品を作ったことでつぶれた会社はないのだから。

戦略プランンのゴールは競争相手よりも大きくなることではなく、より良くなることなのである。

「一度目の挑戦は、単に既存の権威に対して行えば十分だ。が、二度目に挑戦者になるときには、自らの中にある権威に対しても挑戦せねばならない」

勝利も敗北も、一時的な状況にすぎない。トップにいれば、競争相手はすぐに追いついてくるし、最下層にいるのなら、それだけ市場の混乱から受けるメリットが大きくなる。

いずれの座にあっても、心がけるべきは、常に市場に革命を起こし、トレンドを追い越し続けることだ。そう。決定的瞬間を逃さず、枝をいっぱいに広げ、常に破壊し続けるのだ。

慈善のためにのみ生きる者は、そのために死ぬことになる。

自分がビジネスの人間だということを忘れてはならない。

あくまでも、ビジネスを通じて社会的責任を果たすことが主眼で、その利益の一部が社会に還元されることが重要なのだ。だから熱帯雨林の心配をするよりも、まず店のことを考えるべきだ。

ハードとソフトの特典をバランスせよ。

ハード的な特典という場合、それは量的に計量可能な利益を指す。たとえば、料金の割引、無料招待、景品などがそれにあたる。

引き比べて、ソフト的な特典はずっとあいまいだ。特別な電話番号、会員制の予約ルート、無料のギフト包装━これらはいずれも顧客を単なる数字以上の存在、つまり人間として扱うときに生じるもので、もっぱら顧客の心情的な側面に訴える。

顧客にこちらの誠意を伝えるためには、ハード的な特典だけでは足りない。

顧客には常にハード的なサービスとソフト的なサービスの両方をバランスよく提供するべきだ。

フリークエンシー・マーケティング・プログラムの目指しているゴールは単純なものだ。

一言で言うなら「顧客とのあいだの長期的で良好な関係」である。

企業は顧客との取引額に応じて、相応な誠意を示すべきだということになる。複雑な特典(「閏年の月曜か金曜に当社の飛行機を利用したお客様のうち土曜日を宿泊にあてた方には…」式のものは顧客と企業の絆に混乱を招く)

ウチでは400~500種類の商品を扱っているけど、その全部について勝負することは、はなから諦めている。

ただ、サビ止め剤とかスプレー塗料といった顧客の側の価格注目度の高い商品や、塗装用シンナーや電球みたいな身近なものについては連中と張り合うんだ。

ウチのほうがホームデポより安いなんてことは誰も信じちゃくれないしな。

ハーゲンダッツの脅迫のようなことは、まさに「一生に一度」の機会で、逆に言えば滅多に転がっているものではない。

「この日を掴む」機会は、より典型的にはたとえば競争相手の混乱や失策というかたちで訪れる。

もしそれが起こったら、まずこう考えることだ。「敵の顧客に何かサービスできることはないだろうか?」

人の世には道徳というものがある。また、法があり、通念がある。

が、競争相手を出し抜くために守らなければならない原則はほとんどない。

私が伝えたいのは、常識を破り、勇気をもってイマジネーションを発揮せよということだ。

ジョンチュピールがこのことを的確に表現している。「フェアに戦え。ただし、正直に戦うな」

「勝つための闘い方」というのは、テニス用語で的に取って一番返しにくいボールを打つということだ。

これは常に火の出るような強いショットを打てということではない。

ビジネスの場合でいうと、「勝つための闘い方」は、競争相手が最もあなたの顧客を奪いにくく、かつ、新規顧客を獲得しにくくなるようなやり方でビジネスを運営するということになる。