「たった4年で100店舗の美容室を作った僕の考え方」北原孝彦

僕は常に「自分の目指すゴール」から逆算して、「設定」と「設計」を考えるようにしています。

もし「成功の秘訣を一言で言ってください」と言われれば、僕は「設定と設計」と答えるでしょう。

僕の定義では、設定とは、再現性のあるものをどういう人が喜んでくれるか、その「ターゲット」のことです。

一方、設計は「こうしたらこうなる」という原理原則に基づいた「マニュアルと環境で再現できるもの」になります。

設定も設計も動詞。どんなターゲットを設定するか、どんなビジネスモデルを設計するか

よく「集客さえできれば、もっと売り上げが上がるはずだ」とか「良い人材さえ採用できれば、うちの会社はもっと伸びるはずだ」と言う経営者がいますが、問題の本質はそこではありません。

本当に問題なのは「自分がやりたいこと」と「お客様や従業員に求められていること」がズレてしまっている点です。

お客様や従業員から「本当に必要とされるもの」であれば、向こうの方から探してでも、人がやって来るようになります。

まず考えなければならないのは「自分が作ることができる設定と設計は何か」という点です。

先ほどお話した通り、多くの美容室において、求人をかけて集まってくるのは、いくつものお店を渡り歩いて疲れ切った美容師がほとんどです。

そこで、僕が言う「設定」と「設計」が必要になります。

まず設定とは、簡単に言うと「ターゲット」のことですから、ここでは「疲れ切った美容師」ということになります。

カードゲームに例えれば、手持ちは「疲れ切った美容師」というカードしかないわけですから、そのカードで勝つ方法を考えなければなりません。

この場合、「キングさえ持っていれば…」とか「クイーンがほしい」といった無い物ねだりは無意味です。

経営者に求められるのは、「いくつもの悩みを抱えた従業員に対して、全てクリアさせる労働環境を設計してあげること」です。

美容師の離職を防ぎたければ、アッパークラスを作らないのはもちろんのこと、売上を上げられずに困っている人を作らないことも大切です。

売上を中心に上下関係ができてしまうと「売上を上げた人間が偉い」という雰囲気が職場全体に蔓延してしまいます。

一般的なサロンでは、できる限り優秀な人を採用しようとしますが、僕が考えているのは、実はそこではありません。

僕が第一に考えているのは、「ディアーズの設計を通すことによって、その人の人生をどこまで引き上げてあげることができるか」という点です。

自己採点で「今の自分の人生は20点ぐらいかな」と考えている人がディアーズに入れば、60点とか70点になるかもしれません。そうなれば、人生の採点が40~50点アップすることになりますから、振り幅が大きく満足度がグンと上がります。

こうなると、よほどのことがない限り、その人は離職しません。

そもそも人間関係のストレスというのは、どこから生まれるのでしょうか?

それは一言で言うと、仲良くなることから生まれます。

距離が近くなるからこそ、そこに摩擦が生まれるのです。

ディアーズを設計するにあたり、僕はディアーズを「髪質改善に特化したサロン」にすることにしました。

なぜ「髪質改善」に特化させたのか?

カットのデザインというのは人の好みの問題であって、そこに明確な基準はないからです。そこにあるのは「好き嫌い」という名の「曖昧な判断基準」であって、明確な基準はないのです。答えがなければ、改善の仕様もありません。こうした「人によって見方が違うもの」で勝負をすると、いつか必ず行き詰ってしまうはずだと僕は考えました。

僕がディアーズを髪質改善に特化させようと考えたのは、髪質改善は「こっちの方がキレイ」というのが、誰が見ても明確に分かるからです。

誰が見ても答えがはっきりしているものであれば、改善の仕様もあるし、そこには再現性も生まれます。

あなたは「カッコよさ」とか「好き嫌い」といった「判断基準が曖昧な商品」で勝負をかけようとしていないでしょうか?

そうした方向性を選択してしまうと、仮に失敗した場合に、修正の仕様がありません。

ビジネスで確実に結果を出すためには、「正解のある問い」=「判断基準が明確な商品」を扱うことが肝心ではないかと思います。

一般的なサロンでは「顧客創造」とか「顧客教育」という言葉を使って、既存のお客様をいかにしてロイヤルカスタマーに引き上げるかを考えます。

しかしこの方法には大きな欠点があります。

それはロイヤルカスタマーを作れるか、それとも作れないかが、社員のプレゼンテーション能力次第になってしまうことです。

僕が感じているのは、今の時代、特に若い世代の多くは「成長」=「幸せ」とは考えていませんし、そもそも成長することを求めていない人の方がはるかに多いのではないかということです。

今の若者の多くは、成長することを求めていないばかりか、そもそも仕事に対するモチベーションを持ち合わせていないケースが目立ちます。

僕が考えたのは、社員のモチベーションに頼る経営を行わないことです。

社員の能力に頼る経営をしていると、店舗を拡大していけるかどうかは、社員の能力次第ということになります。

僕は「次回予約率」を何より重視しています。

これ以外の数字はほとんど見ていないと言っても過言ではありませんし、従業員に唯一求めるのも、きちんと次回予約を取ることだけです。

LTVが2倍ということは、つまり顧客獲得のための広告や従業員の雇用に2倍の費用をかけられるということです。

言い換えれば、それは「競合他社に負ける要素がなくなる」ということでもあります。

ディアーズの求人ページのポイントは、最初に動画を貼りつけている点です。

動画であれば、ただ眺めているだけでも情報が入ってくるため、疲れていても負担がかかりにくいからです。

さらにポイントをあげると、ディアーズの求人ページは現在働いている社員のインタビューを数多く採用しています。「入社した後」が具体的にイメージしやすくなるからです。

マニュアル通りに接客をすれば、そこに書かれていないことは、一切言わなくなります。

それこそが僕の真の狙いです。

マニュアルのメリットは、マニュアル通りに仕事を勧めることによって、余計なことを言わなくなるという点にあるのです。

お客様にとっては、来店後に金額が上がることがストレスなわけです。

一方強引な売り込みは美容師にとっても嫌なものです。

これを解決する最も簡単な解決方法は、一番価格が高いフルコースのメニューしか提示しないことです。

これによりお客様は「メニューを足される」「価格が上がる」というストレスから解放されることになります。

こうしたお客様にも従業員にも無理をさせない、我慢をさせないスタイルが、「サスティナブル(持続可能)な経営」へとつながっていくのです。

「そのままのあなたでいいよ」

「ディアーズであれば、きちんと売上を上げることができるよ」

僕が社員にそのように言ってあげることができるのは、そう言える仕組みをきちんと設計しているからです。

こうした仕組みを構築しているからこそ、「疲れ切った美容師」というカードでも勝つことができるのです。

会社をスケール(事業拡大)させていくためには、個々の社員にマーケティングの勉強を施すのではなく、「社員がマーケティングの勉強をしなくてもお客様が集まるシステム」を会社で構築するしか道はありません。

店長の育成を中心に据えると、会社をスケール(事業拡大)させるスピードが大幅に落ち込んでしまうことになるのです。

また管理者を置くと、会社をスケールさせるスピードだけでなく、意思決定のスピードも遅くなります。

「店長の力量」に依存したお店作りを進めていると、そこにはどうしても「店長の個性」が入り始めます。

そうすると「経営者が目指す方向性」と「店長が目指す方向性」が食い違う可能性が出てきます。

この乖離が大きくなると、店長が従業員をごっそり引き連れて独立するような事態になりかねません。

ディアーズでは現場でのミーティングを一切しません。

ミーティングによってお店の業績が伸びたと感じたことが、過去に一度もないからです。

僕が現場の社員を管理するために活用しているのは「週報」です。

ほとんどの質問事項は「マニュアルの徹底ができましたか?」「お客様への言葉遣いは意識できましたか?」といったYES/NOで答えられるシンプルなものです。

お店の社員が4人の場合、週報はローテーションで回しますから、一人の社員が担当するのは一ヶ月に一回ということになります。

慣れを防ぐため、たとえ週1回でもいいので、こうした質問事項に答えさせることで「マニュアルを徹底しなければならない」「お客様への言葉遣いを徹底しなければならない」ということを、改めて社員たちに意識させるようにしています。