「成功者の告白」神田昌典

ビジネスで成功するためには、第一にタイミング、第二にタイミング、第三にタイミングだ。つまり、いつ市場に参入するかが鍵なんだ。参入タイミングさえ間違えなければ、順調に会社は立ち上がる。一度立ち上がってしまえば、あとはエスカレーターに乗せられたように、自動的に売上があがっていく。

年商2億~3億円以下のビジネスは日本に非常に多い。もちろん社長はこれ以上大きくしたいと思うだろうけど、このサイズだと組織のごたごたもあまりなく、幸せなビジネスであることが多いよ。

まずは粗利が高いビジネスを見つける。そして軌道に乗ってから、粗利が低い商材も加えていくのはよいことだが、粗利が低い商材を軸にビジネスをスタートさせると、まず立ち上がらない。

独立して軌道に乗るまでの一番つらい時期、一番自分が揺れる時期というのは、顧客を100人程度獲得するまでなんだな。

ビジネスにおいてキャッシュが血液だとすれば、お客様の声というのは呼吸のようなものだ。お客の声を吸い上げれば、お客を呼べる。お客が一人もいなければ、商品を無料であげてでもお客を作る。はじめから利益を出そうとする必要はない。

行き過ぎたプラス思考は、マイナス思考をそのコミュニティに生む。

子供にとっては、家族がすべてだ。家族が居心地悪く、安全な環境じゃなかったら、自分が育つことができない。そこで夫婦仲を取り持とうとする。

子供が2人いる場合は、1人が良い子になり、1人が悪い子になる。良い子は、親の言うことを何でもよく聞き、家庭のヒーローになる。そのことえ家族の絆を取り戻そうとする。一方、悪い子は暴力をふるったり病気になったり事故にあったりする。そうなれば、夫婦が協力して問題に立ち向かうからね。こうして夫婦の絆を回復するように働きかける。

立ち上げ時期はビジネスに全精力を取られる。経営者にとっても創業期の会社は赤ん坊のようなものだ。

妻がそういう状況を分かったうえで耐えてくれるか。夫が妻のサポートを心から感謝し、ねぎらうことができるか。そしてビジネスをできるだけ早く軌道に乗せ、軌道に乗ったら仕事中毒になる前に、家庭とのバランスを取ることが必要となる。

家業から企業に変わるとすると、まったく違うルールになる。今までは好きなことを一生懸命やっていれば良かった。ところが社員数が多くなってくると、社長が当たり前だと思っていたことが現場に浸透せず、まったく見当はずれなことが行われるようになる。

それが初期の警告シグナルだ。それを放っておくと、日常的にストレスが起こるようになり、社員が病気がち、欠勤がちになる。

この成長カーブを曲がりきれるか、というのは、会社にとって非常に大きな試練なんだよ。さっき第二創業期といったけれども会社にとってはそれほど重要な時期なんだ。今までのオーナー主導型から、組織として経営する体制に持っていかなければならない。

日本の会社の90%以上が、年商10億円以下の零細・小企業だ。なぜかといえば、この第二創業期の壁が非常に厚い。

たいていの会社は、マネジメント上の問題が頻発してくると、この段階でベキ論に走る。リーダーたるもの〇〇すべき、これから伸びる人材は〇〇すべき、という話だよ。それを徹底するためにルールを作るんだが、作ったルールを一番先に破る人が出てくる。それは社長本人。だからルールは増えるけど、誰も実行しない。すぐに形骸化する。

社員は社長の鏡というだろう。会社には、社長の足りないところを顕在化させるために、問題を起こすのに最適なメンバーが集まっている。だから、その働く場を向上させていかなければ、いつになっても同じ問題の繰り返しになるんだ。

また、能力がないからさっさとクビを切るという文化を会社が持ってしまえば、今度は、会社が十分なボーナスを辞めるという、相手から奪うという文化を会社の中に構築することにもなる。

鬼の経営スタイルでもないよりはあった方がいいんだ。一番悪いのが、鬼の経営でも、仏の経営でもどちらもない会社だ。

鬼の経営は、高度成長期では非常に効果的だった。

今の時代は、顧客の欲求を喚起しなければ売上が立たない。つまり、欲求を喚起するような商品を想像する力が必要とされる。ということは、現代では仏の経営スタイルの方が合っている。ただ仏といっても、ただ単に優しいだけじゃないよ。そこにはきちんとした規律と厳しさも併せ持っていなければね。

優れたチームを育てるのは、子育てと同じなんだ。

子育てするのに、いきなり厳しくするかといえば、そうではない。まずは母親の無条件の愛を5~6歳ぐらいまでに与える。その後に、父親から社会的生活をするうえでの厳しさを教えるんだ。

子育ての経験のない人間の男が会社でチームを作ろうとすると、逆をやってしまう。会社が混乱すると、まずルールや決まり事で社員を統制しようとするわけだ。

グッド&ニューという、ボールを使った簡単なゲームが、短期間に組織のメンバーを前向きに変えるには最適なんだ。

6人ぐらいまでのチームを作る。このボールを持った人は、24時間以内に起こった良いこと、もしくは新しいことを簡単に話す。話が終わったら、周りの人は拍手する。そして次の人にボールを回す。この繰り返しだ。これを毎日やる。1人1分ちょっと話すとして、6人なら時間にして10分。これだけで、社内が変わり始める。

小さな会社や事業部であれば、そこまでしなくても、みるみるチームが自ら動くようになる。

これは、心理学でいうリフレーミングと呼ばれる作業を習慣化するゲームなんだ。リフレーミングとは、出来事のプラス面を見るように解釈を変えることなんだ。

組織としてはマイナス面に解釈する人が多ければ、当然、新しい行動派とれなくなる。だからどんな出来事でもプラスに考え直せるような習慣をつけて、会社の文化として定着させていく。

話す内容は仕事に関係しないことでもいいんだよ。昨日、映画を観て感動した。今朝電車に乗ったとき座れた。今日ずっと抱えていた問題が解決したとか。良いことや新しいことは情熱をもって語られたり、笑いを呼んだりしやすい。お互いをよく知るきかっけにもなり、今まで暗く淀んでいた雰囲気が明るくなる。

朝礼で〇〇すべきだ、と精神論を語るより、この10分のグッド&ニューの方が効果的だ。はじめは慣れないからぎくしゃくすると思うけど、やっているうちに本当に楽しくなるよ。

さらにチームに信頼をもたらす、とっておきの方法が「承認の輪」と呼ばれるゲームだ。これはチームのメンバー一人一人が大切な存在であることを伝える方法だ。

社員が辞めるときは、この会社では自分の居場所がないと感じたときだ。そこで社員同士で定期的に、社員の会社における存在を承認することが必要なんだよ。

「〇〇さんと一緒に働くことができて、本当に良かった。なぜなら・・・」

このなぜならの後の文章を完成させるんだ。

相手に向き合って姿勢を正し、相手の目を見つめて真面目に話す。話し終わった後もしばらく見つめ続ける。

この承認の輪を、誕生日にやるのも効果的だよ。「誕生日の輪」と呼ばれている。

「あなたが生まれてきてくれて本当にうれしい。なぜなら・・・」

これらは恥ずかしいから効果があるんだよ。恥ずかしく思うということは、普段誰からも自分の存在を認められる機会がないということなんだ。

存在を認められたと社員が思ったとき、社員は仕事に意味を見出し始めることができる。仕事に意味を見出せば、収入を追うだけではなく、それ以上の創造性を発揮し始めるんだ。

ルールや規律を徹底していくステップでは「クレド」と呼ばれる方法がたいへん強力だ。

会社を運営していく上で、絶対に守ってほしいという項目をいくつか文章化するんだ。

リッツカールトンでは、ラインナップという朝礼のような短い会議を毎日開く。そこで、クレドカードに書かれたベーシックと呼ばれる20項目について毎日一つずつ話し合うんだ。この20項目に沿って組織全体が無意識に行動できるようになるまで、徹底して教育していくんだ。

道徳や価値観に関することを教えるには、時間をかけて何回も言い続けなければならないんだ。

もしくは飲みニケーションで、とことん時間をかけて語り掛ける。

20項目くらいの行動様式だったら、毎日ひとつ取りあげていけば1ヶ月ですべてカバーできる。7ヶ月後には7回繰り返されているから、会社運営にとって必要な事項が、社員全員の価値観として定着するようになる。

日本の社是昭和と異なる点は、単に読み上げるのではないということだ。ラインナップでは、その日の項目について自分の意見を言わなければならない。

具体的にどう進めるかといえば、ラインナップリーダーがその日の項目を読み上げる。そしてその項目に関連した自分の感想や最近の体験について話し、他のメンバーと共有する。

唱和の目的は、社員を会社の型にはめて考えない人間を作ることだ。それに対してクレドの目的は、その価値観や行動様式を実際に応用するために、考える人間を作る。

クレドで自分の意見を他のメンバーと共有することにより、脳のフィードバック効果が得られる。自分の意見を口に出す。それに対して他のメンバーが頷くのを見る。これは、自分から発信した情報が自分の返ってくることを意味する。すると、自分一人のときに比べて刺激が2倍だから、脳の神経回路は2倍のスピードで太くなる。

第三者からのフィードバックが大きければ大きいほど、つまり大人数に同意されるほど、自分の意見は正しいと確信できる。はじめは自信がなかったことでも、これでいいんだ、と短時間で腹に落とし込むことができる。すると自分の口に出した行動原則にしたがって、無意識のうちに行動できるようになっているということだ。

脳の構造を前提にして学習を加速化する。だから、クレドを行いながら結果が出ないことは、脳の構造上、不可能なんだよ。

よく働く社員は、働かない社員に文句がいえない。なぜなら同じ地位、同じ立場だからね。だから会社はどんどん悪い社員の方に染まっていくわけだ。悪貨は良貨を駆逐するというけど、ダメ社員はいい社員を駆逐するわけだ。

クレドの項目を考えるには、怒りをきっかけとする。怒りとは、社員への期待、すなわち価値観に対してズレている行動を示すもの。だからね、怒ったことを手掛かりにして、もう二度と怒らなくていいように「〇〇してはならない」という文章をいくつも作っていくんだ。

「〇〇してはならない」という文章ができたら、同じ趣旨を肯定文に直してみる。

会社が成長していくためには、4人の役者が必要だ。起業家、実務家、管理者、まとめ役の4人だ。この役者のうち誰が活躍するかは、会社のライフサイクルごとに異なるんだ。

創業時は、起業家のエネルギーが必要。起業家は、長期的視野のアイデアがどんどん湧いてくる人。創造力があり、そのアイデアを実現しようと行動する。いけいけドンドンで、前に突き進む軍人のような人だといってもいい。

次は、アイデアを具現化していく人、これが実務家。実務家は、会社でいえば商品の仕入れ先を決めたり、配送システムを作り上げたり、顧客の問い合わせに対応する体制を構築したりする。短期的視野の仕事、つまり日常業務を効果的に回す人だ。

この起業家と実務家のエネルギーが協力し合うと、会社は成長期に向かって離陸するようになる。

多くの新規事業や起業家が失敗する理由は、起業かと実務家のエネルギーのバランスが取れてないんだよね。まずアイデアがあって、それを形にする力が加わって、はじめて果実が実る。どんなに素晴らしいアイデアであっても、それを仕組みにしないとビジネスにはならないだろう。

成長期は黙っていても顧客が来る。マネジメント能力を超えて売り上げがあがるので、さまざまな問題が降りかかってくる。

この段階からさらに会社が成長していくためには、実務家は管理者と組んで、日常業務をシステム化していかなければならない。管理者とは、会社でいえば一般的には経理部門だ。ルールを決めたり、日常業務をルーチン化したりして、短期的な効率を重視する。

それぞれの役割のエネルギーが少ないと、社内はすぐにバラバラになってしまう。そこで必要なのがまとめ役。社内でお母さんと呼ばれるような、この人がいるとホッとするという存在だ。小さな会社の場合、社長の奥さんやサポート部門の優しい女の子がこの役割を果たすことが多い。

会社が大きかったり、会社の分裂が深刻だったりする場合には、もう1人まとめ役が出てくることがある。これが問題社員だよ。問題社員が病気になることによって、その人のケアのために会社がまとまる。または問題社員の悪口を言い合うことによって他の社員がまとまるんだよ。

問題社員が現れる背景を知っていれば、問題社員を問題として扱うのではなく、逆にその人の感受性の高さを活かせるようになるんだ。問題社員こそアンテナ役になって最も早く的確に会社の問題をあぶりだしてくれる。

アイデアを思いつく桃太郎は起業家だ。桃太郎が歩いて行くと、そこに犬が鬼退治に加わる。犬は主人に忠実に尽くすので実務家。次に、サルが鬼退治に加わる。サルは知恵の象徴。システム化が重要な仕事である管理者の役割。最後にキジ。記事は愛と勇気の象徴。グループ全体をまとめあげる、まとめ役。

導入期から成長期前半は、起業家のエネルギーを活用する。成長期後半から成熟期にかけては管理者のエネルギーを活用する。

会社というのは、時期によってまったく異なった生き物であり、経営スタイルを180度切り替えなければならない。

組織の崩壊パターンは3つある。

1つは、社会が混乱しているときに社長はいつも会社にいない。会社に来たと思ったら新しいアイデアを次々持ってきて混乱にさらに拍車をかける。そのうち実務家と管理者はその後始末の仕事の後で飲みにいくようになり、起業家の悪口を言い始めるんだ。そこで2人は手を組んでクーデターを起こすことになる。

もう1つは、実務家が起業家に謀反を起こさない場合。この場合には、組織の中で誰も起業家の独走を止めることができない。そのため起業家のエネルギーが強くなりすぎて、管理者が社内にいつくことがない。すると管理部門が弱体化する。会社はいつになってもシステム化することができず、家業のままにとどまってしまう。

最後は、実務家と管理者が非常に強い場合。この場合、社内を混乱させ続ける起業家に嫌気がさして、彼をほっぽり出してしまう。会社に残るのは実務家と管理者。すると規則が非常に厳格になり、組織の硬直化が急速に進む。そして起業家がいないから新しいことが何もできず徐々に衰退していく。

組織崩壊の悲劇を避ける鍵は2つある。

1つは、社長がこのような成長ドラマのシナリオを知っているかどうかということだ。社長がこの知識を持っていれば、落とし穴にはまる前に、経営の目的を売り上げのアップからシステム化に変更できるからね。

会社をシステム化するあいだ、起業家は何をすべきかといえば、会社から離れて遊んでいることが重要。なぜなら起業家はアイデアを出す人だから、社内で活躍する限り、混乱ばかり招いてしまう。起業家は遊んでいるうちにまた新しいアイデアが浮かんでくる。そして社内のシステム化が完了したときを見計らって、会社に戻る。すると今度はまた起業家の優れたアイデアで成長事業がスタートできる。継続的に成長する会社の社長は、この通りに行動していることが多いよ。2年くらいハワイで遊んでいたと思ったら、大きなビジネスのアイデアを持って帰ってきて、さらに会社を急成長させる。流れに乗っている会社は、よく遊びながらよく仕事をし、成長していく。このような流れに乗っていない会社は遊んでいる余裕もない。成長期に儲かるから、それで浮かれているうちに成熟期がきてしまって、収益力も組織力もないという大変な状況になる。

第2の鍵は、社長がまとめ役になること。そして社員1人1人がまとめ役の資質を育てていくこと。まとめ役というとお母さんのような存在なんだけど、家業が企業になると、今度はお父さん、つまり社長がまとめ役にならなければならないんだよ。会社が成長したときのまとめ役はお父さんのように理念や哲学や生き方を教えてくれる存在なんだ。これらをクレドを通して効果的に社内に浸透させていく。