「マーケット感覚を身につけよう」ちきりん

最初にダイソンがサイクロン方式の掃除機を売り出したとき、国内メーカーの掃除機に比べて3倍以上もする商品がバカ売れしたのは、「サイクロン方式がすばらしいから」ではなく、「ダイソン社しかサイクロン方式の商品を出していなかったから」です。

市場化が進む社会で高く売れるのは、「よい商品」ではなく、「需要に比べて供給が少ない商品」なのです。

これまでの日本では、国家資格が必要な職業はほぼ自動的に「いい職業」だと思われてきました。

でもこれからは、お上が国家資格で保証してくれる職業ではなく、市場で強く求められる職業こそが、いい職業です。

自分をどこで売るべきか、自分が高く売れる市場はどれなのか。

「一生懸命頑張る!」前に、どの市場で頑張るべきなのかという市場の選択にこそ、マーケット感覚を働かせる必要があるのです。

私は、マネタイズにはあまりこだわらないほうがよいと思っています。

重要なのは儲かるかどうかではなく、「価値があるかどうか」なのです。

マネタイズは方法論でありノウハウです。一方、価値を見極めるのは、もっと本質的な能力です。

たとえ今は価値付けされていなくても、もしくは、まったく儲かっていなくても、それに価値があるのかどうか、あるとすればどんな価値なのか、誰がその価値を最も高く評価するのか、そういったことが(最初は論理的にではなくてもいいので)直観的に理解できるようになることが重要なのです。

重要なのは、説明の合理性ではありません。

説明を聞く前から、顧客側が「この人は、私が信じられる人だ」「この人は、自分に合う商品を理解してくれている」と感じていることが重要なのです。

これから重要になるのは、「自分は何を売っているのか」「何を買っているのか」について、意識的になることです。

糸井重里さんや栗原はるみさんは、自分が売っているのが手帳やフライパンだなどとは思ってもいないでしょう。

売っているのは、モノを選ぶときの価値観やセンスであり、毎回の販売を通じて獲得した購入者からの信頼感です。それが分かっているから、彼らは成功しているのです。

もしも高校の演劇部の全国大会が、エンターテイメントコンテンツとして価値を提供したいと考えるなら、「高校生としては巧いけど、プロよりは下手な演技」ではなく、「プロの演劇を観に行っても得られない何らか別の価値」を提供する必要があるのです。

この点に注目して成功したのが、秋元康氏がプロデュースするAKB48です。

もともと存在していたモノの中に、新たな価値が見いだされ、巨大な市場になったものが沢山あります。

それらを市場として大きく育てたのは、最初にモノや制度を作った人ではありません。

途中で、その潜在的な価値に気付いた人なのです。