「人生は攻略できる」橘玲

AKB48が48人を基準にしていて、1クラスの人数の上限が40人なのには理由がある。

脳の機能には制約があって、50人を超えると、一人ひとりの個性を見分けることができなくなってしまうのだ。

もっと大きな集団については、150人から200人が上限で、それを超えると「仲間」として認識できなくなる。

高校受験で1点足りなくて不合格になった運の悪い学生を大量に集めて、1点差で合格できた運の良い学生のその後の人生と比較してみた。

すると、高校受験でうまくいかなかった生徒も一流大学に進学し、大学受験に失敗しても一流企業に就職していることが分かった。

アメリカやヨーロッパ、日本のような先進国は、それなりに平等な社会になってきた。そういう社会では、肩書や学歴ではなく実績で個人が評価され、その結果、ちょっとした不運はいずれなんの影響もなくなるのだ。

「自分らしさ」とは何だろう。

その特徴は、何が「自分らしい」か訊かれても上手く答えられないけど、「自分らしくない」ことはすぐに分かるし、その判断に何の迷いもないことだ。

これは、君が「自分」を知らなくても、無意識は君が何者なのかちゃんと知っている、ということだ。

好きなことは得意なことで、「自分らしいこと」でもある。

そしてこれはとても大事なことだけど、ここから分かるのは「圧倒的な努力」ができるのは好きなことだけというものすごく単純な事実だ。

最初から「好き」が分かっていて、夢に向かって一直線に進んでいける幸運な人を除けば、「好きを仕事にする」方法はたぶん一つしかない。

それはトライ&エラーだ。

「好きなことがまだ見つからないなら、探し続けてください。本当にやりたいことが見つかったときには、不思議と自分でもすぐに分かるはずです」

ジョブズが「探し続けてください」というのは、「天職」が見つかるまで何度でも転職しろとか、「運命の相手」が見つかるまで恋人を取り換えろということではない。

「スピリチュアル(無意識)が拒絶するもので妥協するな」ということだ。

トライ&エラーをしていくうちに、君のスピリチュアルが「好きなこと」を偶然に見つけてくれる。そうなれば、あとはそれに全力投球するだけだ。

好きなことだから頑張れるし、頑張ったことでみんなから評価され、それがますます好きになる。

この好循環(フィードバック)から、君にふさわしい「天職」が生まれる。

だから、「好き」を見つけたら、「他にもっと向いている仕事があるのでは」なんて考えない方が良い。

これからの君の一番大事なプロジェクトは、「好きなこと、得意なこと」を仕事にする方法を見つけることだ。そうなれば、80歳でも100歳でも、いつまでも働き続けることができる。

仕事が遊びであり、生きがいになったなら、君が50歳になったとき、「まだあと50年も楽しめるのか」とものすごくポジティブな気持ちになるだろう。

日本の大学の研究では、年収800万円を超えると幸福感はほとんど変化しなくなることが分かっている。

これは一人当たりだから、夫婦で子供のいる家庭だと、年収1500万円くらいになる。

これも同じ大学の調査で、金融資産の場合、1億円を超えると幸福度は変わらなくなる。

さまざまな国際調査で、日本のサラリーマンは世界で一番会社が嫌いで、自分の仕事にネガティブな感情を抱いていることが分かっている。

OECD(経済協力開発機構)のような国際的な団体も含め、10を超える調査で分かったことだ。先進国だけでも、新興国を入れても、世界平均でも、どんな調べ方をしても日本の順位は最低なのだ。

さらに、1人あたりの労働者がどれくらい利益をあげたかを示す労働生産性で、日本人はアメリカ人の7割しか稼いでいない。

バザールは、誰でも自由に商品を売り買いできる開放的な空間をいう。

バザールでは誰でも商売を始められるわけだから、ライバルはものすごく多い。

バザールで有効な戦略は、「失敗を恐れず、ライバルに差をつけるような大胆なことに挑戦して、一発当てる」だ。

運よく成功するより挑戦に失敗することの方がずっと多いだろう。でも、そんなことを気にする必要はない。バザールでは、悪評はいつでもリセットできるのだから。

Netflixが2009年、自分たちの人事方針を説明した「カルチャーデック」という社内文書を一般公開すると、「革新的」なシリコンバレーですら大騒ぎになった。

たとえば、有給休暇の制度は廃止する。上司が合意すればどれだけ無制限に有給を取ってもいいことにした。

同様に、経費精算の規則も廃止された。

そんなことをしたら大変なことになると警告されたが、社員はこれまでどおり常識的な有給の使い方をし、経費を悪用したりもしなかった。これは、社員を「大人」として扱うということだ。

さらにNetflixでは、必要な人材を年収数千万円とか、あるいは1億円以上でヘッドハンティングしているのだ。

でも本当に驚くのは、優秀な人材を採用するために、これまで会社に貢献してきたそこそこ優秀な社員には解雇手当をはずんで辞めてもらうという方針だ。

Netflixは、会社をプロスポーツのチームのように考えている。

それに対して日本の会社は、ビジネス環境がどれほど変化しても、たまたま新卒で採用した社員だけでなんとかやりくりしようとする。

これは、フォワードがいなくなったら「陸上部のあいつ、ちょっと足が速いからどう?」とか「ゴールキーパー、身体がでかいからあいつにやらせればいいんじゃないの」とか言っているのと同じだ。

そんな素人チームが、メッシやクリスティアーノ・ロナウドがいる世界的なクラブと互角の勝負ができると思っている。

ベンチャー投資家のティールが始めた奨学金プログラムが「20 under 20」だ。

このプログラムでは、起業しようとしている20歳未満の学生20人に10万ドルの資金が与えられるが、その条件は大学をドロップアウトすることなのだ。

ティールがなぜこんな奇妙な奨学金を思いついたかというと、起業に成功するのに最も重要なのは「若さ」だからだ。

Appleのスティーブ・ジョブズが最初に友人とコンピューターを設計したのは20歳、ビル・ゲイツがマイクロソフトを設立したのも20歳、マーク・ザッカーバーグがFacebookの前身になるSNSを始めたのもハーバード大学在学中だ。アインシュタインが特殊相対性理論など、物理学の常識を書き換える3本の重要な論文を発表した「奇跡の年」は1905年で、26歳だった。

「本当に賢い若者にとって、大学に行くのは時間のムダだ」とティールは言う。

アメリカでは「神から特別な才能を与えられた」という意味で彼らを「ギフテッド」と呼ぶ。

そんなギフテッドですら、シリコンバレーで成功できるのは何千人に1人で、確率的には0.1%以下だ。

それに対して日本なら、ゲームやアプリを開発したり、シリコンバレーのイノベーションを日本風にカスタマイズして大手企業に売却するだけで数億円になる。

だったら、世界中の天才が集まるシリコンバレーではなく、「ぬるい日本」で億万長者になった方がいいと、本郷バレーの若者たちは考えているのだ。

GAFAがプラットフォームを独占するのは大手企業には大参事かもしれないけど、オリジナルのコンテンツで勝負しようとするクリエイターにとっては、こんなに素晴らしい時代はない。だったら、このチャンスを利用しない手はない。

得意な場所(ニッチ)を見つけたら、あとは頑張ってそこで一番になればいい。

小さなマーケットでもお客さんを独占できれば、楽しく暮らすには十分なくらいの利益はあげられるだろう。

それと、これから重要になるのは、一つのところにとどまらずにフットワークを軽くすることだ。

ニッチな市場はちょっとしたことで消えてしまうけれど、広大なグローバルマーケットの中には別のニッチがきっとあるはずだ。

「好き」を維持したまま、そのときに一番適したプラットフォームに移動していく。最近ではこれを「多動力」と呼ぶようだ。

グローバルなプラットフォームを上手に活用できれば、お金を稼ぐのにもはや会社に頼る必要はない。

実はこれは世界的な現象で、そのことに気付いた人たちが若くしてどんどん独立している。

幸福の研究では、さまざまな調査で、一度の大きな痛みより長く続く小さな痛みの方が幸福度を大きく引き下げることが分かっている。

「夫や妻、子供と死別するより、毎日の長距離通勤の方が(長期的には)人を不幸にする」などという研究もある。

評判経済で生きていくのに大事なのはネットワークを作ることで、そのために必要なのは「テイカー」ではなく「ギバー」になることだ。

ギブしても減らないものは2つある。

一つは、面白い情報を教えること。もう一つは面白い知り合いを紹介することだ。

ネットワーク社会の「ギバー」とは、この2つをせっせとやっている人のことだ。それに対して「テイカー」は、「お金の儲かる情報はないの?」「役に立つ人はいないの?」といつも聞いてばかりいる。「教えて君」はしまいには相手にされなくなって、ネットワークを作ることができないのだ。

今すぐ幸福になろうと必死にならなくてもいい。

不幸から幸福に向かって上昇しているときが、一番幸福だからだ。

幸福の研究は、モノよりもコトの方が幸福感は長く続くということを明らかにした。

印象的な体験はそれぞれの心に刻まれ、会話で繰り返され、人生の物語を作っていく。

形あるモノがどんどん老朽化し、しょぼくなっていくのに対し、「心の中にあるコト=物語」は脳のポジティブな作用によって、逆にどんどん美化されていく。

そう考えれば、若いときはいろんな体験をした方が良い。その中にはイヤなこともあるかもしれないが、レジリエンスの力で、何年か経つうちに楽しい思い出に変わっていくだろう。友達との会話で一番盛り上がるのは、みんなでヒドイ目にあった体験に違いない。

人的資本は「好きなこと・得意なこと」に一極集中する。

金融資本はグローバルマーケットに分散投資する。

社会資本は小さな愛情空間・友情空間と、広大な貨幣空間のネットワークに分割する。

これが来るべき時代の人生戦略になるだろう。